中古バスをEVに「魔改造」 新車導入コスト抑え 温室ガスも半減
中古ディーゼルバスを改造した西日本鉄道のEVバス
日本有数のバス保有台数を誇る西日本鉄道グループ(福岡市)が、中古ディーゼルバスを電気(EV)バスに改造する事業に乗り出した。自社だけでなく、全国のバス会社から改造を請け負う計画で、新車購入より価格が抑えられるのが強み。現在国内を走るEVバスの多くは中国製だが、国内メーカーにも動きが出ており、業界は「今年はEVバス元年」と位置づけ、国産EVバス普及に取り組んでいる。
6月9日、西鉄が「レトロフィット電気バス」と呼ぶ改造中古EVバス2台が福岡市内で運行を始めた。改造されたのは運行開始から13年の中古バス。EVバスはディーゼル特有の大きなエンジン音がなく、静かに走る。「それほどアクセルを踏み込まずに坂道を走れる」と運転士は違いを語る。
レトロフィットとは旧式の機械を改装・改造して新式にすること。今回は、エンジンなどを取り外して駆動用モーターやバッテリーを搭載した。台湾最大手の電気バスメーカー「RACエレクトリック・ビークルズ」の技術指導を受けて自社グループで改造を手掛けた。西鉄が運行するEVバスはこれで5台となった。
1回の充電で走れる距離は約150キロ。ディーゼルに比べ二酸化炭素(CO2)を52%削減できる。改造費用は約2700万円で、国土交通省から約900万円の補助を受けられる。新車のEVバスは4千万円前後のため、コストを抑えてEV転換を進められる。
改造をビジネスに
国の2030(令和12)年度の温室効果ガスの排出量削減目標の達成に向け、バス業界など運輸部門ではCO2を13年度比で35%の削減が求められており、西鉄はEVバス普及に向け、他のバス会社に改造バスを販売することを計画している。林田浩一社長は「(各バス会社は)イニシャルコストを抑えてEV化を進めたいという思いを持ち、相談や打診をよく受ける。新車導入までのつなぎの期間で活用するなど選択肢を広げる意味で貢献できる」と語る。
EV関係機器は台湾製だが、国内改造のため国産の位置づけになるといい、同社の山口哲生・技術部長は「複数のバス会社が視察にきている。幅広い車種の改造ノウハウを確立することが今年度の目標」と意気込む。RAC社のエルビス・ヤン社長は「台湾は政府が手厚い支援をし、ディーゼルと同じ価格でEVバスを購入できる。日本では中古の改造の方が置き換えを速くできる」と意義を語った。
西鉄は自社グループで年間20~30台をEV化し、2030年度にはグループのバスの約1割にあたる約250台をEVバスに置き換える目標を掲げる。
国産に期待
国内メーカーの動きも活発化している。「EVモーターズ・ジャパン」(北九州市)は今年1月、北九州市若松区で、国内初となる商用電気自動車専用の量産組立工場の建設を開始した。これまでは中国メーカーが組み立てた車両を輸入していたが、国内で生産体制を確立し、5年後にはEVバス・トラック合わせ約1500台の生産を目指している。すでに7事業者に16台の納入実績があり、2025年に開催される大阪・関西万博向けに100台を納入する契約を結んでいる。広報担当者は「バス会社からは国内メーカーが手掛ける安心感があるという声がある。航続距離が長く、バッテリーの長寿命を実現できるシステムにも強みがある」と語る。価格はディーゼル車の1・5倍以内を設定し、国の補助を活用すればディーゼル車と同等の価格で購入できるという。今年1月には伊予鉄バス(松山市)が同社の大型EVバスを導入。年度内に計10台の導入を計画するなど、各地でEVバスの採用が増えている。
大手では、いすゞ自動車と日野自動車が令和6年度に、EV路線バスの生産を開始すると発表。現在、国内のEVバスの多くは中国のBYD社製とみられ、普及が本格化すればコストの安い中国製が圧倒するとの見方もある。国内メーカーは需要が少ないEVバス開発に積極的とはいえなかっただけに国産に期待する声は大きい。
自動車検査登録情報協会(東京)によると、国内で保有されているEVバスは令和4年3月末時点で149台。国土交通省によると、路線バスなどの国内の乗り合いバスは全国に約5万6千台のため、普及率はわずかにとどまる。
普及促進に向け、国交省は今年度、EVバス導入支援として昨年度の10倍となる約100億円の予算を確保。担当者は「導入にはコストの高さがハードルとなってきたが、近年の燃料高の影響もあり、導入希望のバス事業者が増えている」と説明する。日本バス協会は今年を「EVバス元年」と位置付け、2030年までに累計1万台を導入する目標を掲げている。
熊本大大学院先端科学研究部の松田俊郎シニア准教授(電気自動車開発)は、国の補助も活用し、各バス会社が購入できる価格になることが普及の鍵を握ると指摘。「国内のバス会社は品質やアフターサービスの観点から国産バスの登場を待っている。メーカーは中国製に負けないよう価格を抑える工夫をしないといけない。政府目標の達成にはCO2排出量が多いバスをEVに置き換えないと間に合わず、バスの改造事業も意義がある」と話している。(一居真由子)
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